認知言語学の功罪
―「個別言語」と「言語」と「認知」のせめぎあい―
※終了しました。(参加者80名)
ご来場くださった皆様に御礼申し上げます。フロアとの議論の時間がとれなかったことにつきまして心よりお詫びいたします。議論の続きを別の機会に改めて行いたいと考えています。(酒井智宏、2013年6月1日追記)
日時: 2013年6月1日(土) 10:00-12:00
会場: 国際基督教大学 (ICU) 本館 304 教室
(キャンパスまでのアクセスはこちらをご覧ください。)
申し込み: 不要 (直接会場にお越しください。)
参加費: 無料
※ 日本フランス語学会の会員でない方の参加も自由です。
※ フランス語を学んだことがない方もどうぞご遠慮なくお越しください。
多数のご参加をお待ちいたしております。
パネリスト:
西村 義樹 (東京大学) 「英語学」
守田 貴弘 (東洋大学) 「フランス語学」
河内 一博 (防衛大学校) 「シダーマ語学・クプサビニィ語学」、
ニューヨーク州立大学バッファロー校Ph.D
柚原 一郎 (首都大学東京) 理論言語学、シカゴ大学Ph.D
企画・提題・司会: 酒井 智宏 (跡見学園女子大学)
プログラム:
10:00-10:05 パネリストへの宿題 酒井 智宏
10:05-10:25 「英語学者」が認知言語学を研究するわけ 西村 義樹
10:25-10:45 「フランス語学者」が認知言語学を研究するわけ 守田 貴弘
10:45-11:05 「シダーマ語・クプサビニィ語学者」が認知言語学を研究するわけ
河内 一博
11:05-11:15 休憩
11:15-11:35 認知言語学(者)がこのままではいけないわけ 柚原 一郎
11:35-12:00 批判に応える / 批判に屈する / 応答を評価する
西村 義樹・守田 貴弘・河内 一博・柚原 一郎・酒井 智宏・フロア
– フランス語のこの言語現象には人間の認知が反映されているんだよ。
でも、英語にその現象はないですよね。ってことはフランス語を話す人と英語を話す人は認知が違うってことですか?
– ヒトとしての認知は同じだけど、顕在化する認知パターンが違うってこと。言語に現れる認知パターンを研究するのが言語学者の仕事なんだ。
そうか、認知パターンが違うから外国語を学ぶのがこんなに大変なんですね。いまドイツ語の複数形が覚えられなくて困っているのですが、きっとドイツ語を話す人にとっては、たとえば猫が複数集まる (eine Katze → Katzen) のと、鳥が複数集まる (ein Vogel → Vögel) のとでは、複数性の認知パターンが違うってことなんですね。英語だとどっちもsをつける (a cat → cats, a bird → birds) だけなので、英語を話す人はどっちの場合も同じ認知パターンだと思いますが。フランス語は複数形にしても名詞の発音が変わらないので、あ、でも冠詞は変わるから・・・まあいいや。シダーマ語の複数形を調べたら、シダーマ語を話している人たちの認知パターンが分かりますよね。言語を調べただけで認知パターンまで分かるなんて、すごいなあ。でも、猫が複数いるのと鳥が複数いるのとで、いったい何が違うんだろう。想像もできないや。
– そんな細かい形態変化にまで認知パターンが反映されているかとはかぎらないよ。
え? 認知言語学の授業で「形式が異なれば意味も異なる」って習いましたけど。じゃあ、先生が研究されている言語現象にだって、フランス語を話している人たちの認知パターンが反映されているとはかぎらないですよね。
– 人間の普遍的な認知というものがあって、それがある特定の形をとってフランス語の表現に現れているということなんだ。私はそういう表現を研究しているのさ。
その人間の普遍的な認知というのはどうやったら分かるんですか。まさかフランス語や英語やシダーマ語etc.の表現から共通部分を取り出して、なんて言わないでくださいよ。そうやって取り出された「認知」が言語に反映されているのは当たり前じゃないですか。本物のブーメラン遊びは楽しいかもしれませんけど。
– 認知科学や脳科学といった学問があるから、それらを勉強してみるといいよ。
じゃあ、フランス語なんか経由しないで、いきなりそれらの学問を研究したほうが簡単に認知パターンの可能性を調べられますよね。なんでわざわざ回り道するんですか。
– われわれはフランス語学者だから、フランス語そのものを見ないといけないんだ。