260回例会

日時:11月15日(日) 14時〜17時
会場:京大会館 211号室
アクセスはホームページ http://www.kyodaikaikan.jp/をご覧ください。発表者:
出口優木(神戸女子大学非常勤)
 「連想照応の境界線 — その現象とメカニズム」
小田涼(関西大学非常勤)
 「déjàの様々な用法について(仮題)」


要旨:
●出口優木「連想照応の境界線−その現象とメカニズム−」
今回の発表では、連想照応の定義と範囲を改めて確定する。それは、現象として「連想照応的」であるものと、照応の源泉が連想であるものとを区別することによる。Kleiber、Charollesとは異なる境界線を示し、今まででもっとも狭い範囲に定義することになる連想照応に関してその妥当性を検討したい。そして、連想照応ではないが、「連想照応的」である照応への新たな理論付けを行いたい。
連想照応とは、照応詞を含む文が、先行詞のある部分に関して何かを追加して述べる形をとる。照応詞の表す対象は個体レベルの存在であり、Kleiberが述べるところの分離可能性条件を満たした存在である。故に、属性や身体部位(個人としての人間の)は、連想照応しない。連想的に見える例においても、その照応の源泉は別にあると考える。よって、以下の例は連想照応ではない。ただし、先行詞と照応詞は「連想的」ではある。
Les coureurs redoublent d’effort. On voit les muscles saillir sous les maillot.  (Fradin1984)
この「連想的」であるが、連想照応ではないもの、なぜなら照応詞の定性をもたらしているのは直接的には先行詞との関わりではなく、知覚動詞の存在であると考えられる現象に関して、新たに「物語の現場指示」という概念を提唱したい。それは、談話世界内の登場人物あるいは語り手によって知覚されている領域を、物語内の発話状況として捉え、話し手・聞き手のもつ言語文脈にそれが埋め込まれた形で存在し、その入れ子状態がこの連想的な照応を形作っていると主張するものである。Harkinsが定名詞句の用法で、immediate situation useとして定義した用法との関連を考慮しつつ、「物語の現場指示」が可能になる制約に関して検討し、この概念の妥当性を検証するのが、今回の発表の最も重要な部分であると考える。合わせて、連想という概念を支えているフレームの概念に関しても検討し、連想照応、そして「連想照応的」な照応の相違を考える助けとしたい。
●小田涼「dejaの様々な用法をめぐって」
副詞dejaには、次の(1)から(6)のような様々な用法があることが知られている。
(1) – Elle est deja arrivee ? – Non, elle n’est pas encore arrivee. [尚早的用法]
(2) – Tu as deja ete amoureuse ? – Non, jamais. [経験を表す用法]
(3) Ce qui compte, c’est vouloir, vouloir quelque chose a tout prix. Par exemple, si on veut le bonheur, eh bien, vouloir le bonheur, c’est deja un peu le bonheur. [尺度的用法]
(4) [「これからの日本チームの課題は?」と尋ねられたPhilippe Troussier元監督が]
Troussier : Deja, il faut choisir un nouvel entraineur. [論理的連鎖を表す用法]
(5) [ル・モンドの風刺画:商店の日曜営業規則の緩和についての法案をめぐって議員が] Deja qu’on doit travailler jusqu’a fin juillet… ! [論拠を示す用法]
(6) Comment s’appelle-t-elle, deja ? [想起的用法]
例(1),(2),(6)におけるdejaはアスペクト的用法だが、例(3), (4), (5)におけるdejaは非アスペクト的用法である。本発表では、このようなdejaの様々な用法を分類・定義し、これらの用法の相互の関係を分析する。また先行研究では、否定のne~pasとともに使われるdejaの意味については詳しく論じられていないが、本研究では、否定文においてdejaがpasの後に来た場合には(i)アスペクト的価値をもつ副詞として、dejaがpasの前に来た場合には(ii)談話管理的機能をもつ副詞として働くことを示す。

Comments are closed.